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CAD とデータベースを活用した、森林調査のデータ管理システムの事例を紹介いたします。
本ページは「ヤマネ研究支援」のページと重複する内容があり、説明の一部を省略していますので、両ページをあわせてご覧いただけると理解しやすいと思います。
山梨県 清里の「ニホンヤマネ保護研究会」では、ヤマネの生態研究や森林保全の立場から、ヤマネの観察フィールドである県有林において、植生調査を行っています。ヤマネが利用している樹木を中心に、樹種・樹高・枝張りなどのデータを集め、ヤマネの生態と森との関連性を見ることを目的としています。植生に関する統計的なデータを作成したり、分布の特性を二次元、三次元的にマッピングして見るためのソフトウェアを弊社にて開発することにしました。
ヤマネのホームレンジ描画ソフトと同様、市販の CAD ソフト「VectorWorks」上に構築することとしました。データベースは、ファイルメーカー
Pro または OpenBase SQL をバックエンドにし、VectorWorks と連携させて、樹木のデータベース化と植生図の自動作図を行う予定です。このソフトについては、まだ具体的な仕様が確定していません。
開発途中ですが現時点(2002.2)での概略をまとめてみます。

調査で測量した樹木を三次元図形で表現した例
主に使用したソフト
- VectorWorks(図形データベースの作成)
- RenderWorks for Vector Works(<-- VectorWorks用レンダリングモジュール。リアルな陰影や質感を表現する。)
- Microsoft Excel (データテキストの入力)
- Jedit(データテキストの整理と調整)
- Adobe Photoshop (地図製作など)
- Adebe Illustrator (地図製作など)
- ファイルメーカー Pro または OpenBase SQL (データベース)
開発期間
2001年11月より打合せ開始。2002年2月現在も進行中。
制作の過程
ニホンヤマネ保護研究グループに植生の専門家として参画している若林環境教育事務所 若林千賀子氏の監修のもと、植生図に求められる仕様など植生調査の詳細についてリサーチしています。プラットホームとして採用したVectorWorks
は、数値に基づいた正確な三次元オブジェクトの生成も可能で、投影やレンダリングの方法、視点の角度や高さなどさまざまな条件をリアルタイムに変更して確認することができます。データベースやワークシート機能も備えている上、専用プラグインも豊富にあり、独自プラグインの開発も可能なため、将来的な機能の拡張にも対応できると考えます。
VectorWorksについての詳細は、エーアンドエー株式会社のサイトへ
まずは、一般的に植生図として必要になる2つの図(以下1と2)の作成と、簡易な樹木図形を3Dオブジェクトとして作成する、3つのマクロコマンドをVectorScriptで制作することにしました。
1. 森を空(真上)から見た時のような、1つ1つの樹木の枝の広がりや重なりがわかる図。
2. 同様に、真横から見た時のような、樹木の高さや木々の重なりがわかる図。
3. 枝葉を簡略化した立体の樹木図形を作り、いろいろなシミュレーションをするためのベースをつくる。
いずれのマクロも測量で得た数値を読み込み、位置や大きさを正確に反映するものとします。
■マクロ1:真上から見た樹形を二次元図形で作成する
読み込むデータは、調査で記録されたデータをtab区切りテキストにまとめたものです。データは、杭番号(2つ)・杭から樹木までの距離(2つ)・方向と、枝張りの方角と長さ(各4つ)・幹の胸高直径となります。位置はヤマネのホームレンジ作成の時と同様に特定します。枝張りの図形は、リサーチの結果手書き風の丸みを持たせた表現が多いということだったので、枝張りの4点を通る多角形を作り、頂点をベジェキュービックスプラインにしました。幹の図形は胸高直径の数値を直径とする正円で描きます。

樹木を上から見たときの枝張りと幹
作成した図形にレコードフォーマットを割付け、樹種名や備考等を図形データベースとして管理しています。下図のようにレコードの内容を図形と一緒に表示することも可能です。また、これを検索項目にすることで表示非表示を切り換えたり、特定の図形を選択して加工を加えることも可能です。

レコードの情報(ここでは樹種名)を文字として図形とともに表示した例。
■ マクロ2:真横から見た樹形を二次元図形で作成する
仕様の詳細を検討中です。
■ マクロ3:樹形を三次元図形で作成する
読み込むデータは、マクロ1で使用したものに高さの数値(樹高・枝下高)と樹種が加わります。今までの調査で集まったデータによると、樹種は約30種類ほどありました。これを樹形により3パターンに大別し、下図のような形で表現することにしました。枝葉を精密に描く必要はないようなので簡略化した形ですが、大きさは正確に測量した値を適用したサイズになっています。

右から、杯形、円錐形、球形
マクロ1と同様に幹と枝張りの二次元図形を作成し、幹はそのまま枝下高の高さで細い円柱形にします。
枝張り図形のうち、 杯形は元図形から複製をとって変倍し、球形は元図形から4つの複製をとって変倍し、円錐形は幹の位置に基準点を置き、それぞれ元図形とともに多段柱状体にして三次元化しています。

あるヤマネが一晩で利用した樹木を三次元で表現。斜め右前方から確認した場合。

同様に前から確認した場合。
このように、出来上がった3Dオブジェクトにレンダリング処理をして視点を変更すると、マクロ1とマクロ2で目指す図に近いものを表現することが出来ます。しかし、このような操作はマシンへの付加が大きくなります。今後の状況によっては更に図形数が増えたり図形が複雑になることも予想されます。そこで今回はクライアントのハード環境も考慮して、二次元図形をうまく利用して、必要とする機能ごとに3つマクロで実現することにしました。
制作上のTips
マクロ1について、いくつか苦労した点がありました。
木によっては全く枝がなく幹だけのものがあったり、枝が貧弱で枝張りデータが4箇所で測量できない場合があります。それぞれの場合で別の処理が必要になりました。更に後者の例の場合、ベジェキュービックスプラインでは不自然なねじれが入る場合があります(下図)。出来るだけ樹形に影響を与えずにこの問題を回避するよう、幹の位置に頂点を追加するようプログラムを修正しました。

樹木を表現した多角形だが、ねじれが出来てしまう場合があった。
マクロ3については、三次元化した幹図形と枝図形がズレたり離れたりする問題(下図左)がありました。
これは、上から見た場合に幹が枝図形の中心から離れたところに位置している場合に起こりました。枝図形を三次元化する際、多段柱状体を構成する二次元図形の位置を調整することでこの問題を回避しました。

前から見た樹木。左は幹と枝図形が離れてしまっている。右が修正後。
今後の課題
ヤマネの生態研究から派生して出来てきたプログラムなので、環境調査や林務管理等のプロの現場で利用するためにはまだ物足りないところもあるかと思います。わたしたちももっと勉強したり現状をリサーチして、自然と関わる職業の方々を情報技術の側面から支援していきたいと考えています。今のところ植生図作成がメインの機能ですが、ニーズに応じてまだまだ提供できる機能が潜在していると思います。3Dオブジェクトを作成したことで、シミュレーション的な使い方も考えられます。たとえば
VectorWorks の標準の機能で太陽の位置を指定して配置することが可能なので、特定の場所の陽当たりや、時間ごとの移り変わりなどをシミュレーションできます。
VectorWorksのプラグインに「VectorTree」という製品があります。この製品は樹木のパラメトリックシンボルを作るツールとして提供されており、さまざまな入力項目を数値で指定することで、かなりリアルな樹木モデルを作成することが可能です。
今回は入力項目の相違や実行速度の点で、独自に開発する道を選びました。パラメトリックシンボルは1つの図形の中にさまざまな可変の情報を持つことができ、作成後の図形の変更も容易に行えることが魅力です。今後、ソフトとしての仕様が固まった時点で、プログラムの形態や構造、ユーザにあったUI等を改めて検討したい思います。
所 感

樹木の位置や大きさの測量をする「樹木調査」は、ヤマネに魅せられた多くのボランティアスタッフの協力によって行われています。調査地の森の中、専門家の指導のもと実地で測量作業を覚え、作業はわいわいと楽しく進みます。しかし、この記録を後でコンピュータに入力するのが実はひと苦労なのです。
記録用紙には測量の数値以外に、想定外の記述がたくさんあります。なにせ相手は野生の木、いろんなことがあるものです。素人には枯れているのかいないのか見た目では判断できなかったり、寄生したつる植物なのか自身の枝なのか、株が分かれているのか2本の別の木なのか.....。とにかく迷ってしまうわけで、少しでも正確に伝えようと、記録者はすべて用紙に書き留めていくのです。
地面が真っ平らではないように、長年自然に育まれた樹の形もそれぞれとっても個性的。規則正しく出来ているわけはないですよね。記録はどんどん増えていきます。
こうしたことは自然を相手にする面白さであり難しさでもあるのですが、プログラムは融通がきかないので、とにかく何か数字なりデータでそこを埋めねば答えが出ない。このあたりの調整にはいつも苦労しています。実際、倒木や枯れ木など、データを取りにくいものが、ヤマネの生態や森林保全上、重要なウェイトを占めていることもわかってきています。
ビジネスの世界でも同じことですが、冷徹に「データ」にしてしまった方が良く見えることと、「データ」としててはなく対象を「感じる」ことでこそ見えてくることがあります。常にこうした両極の感性をもって、IT
化、情報技術を考えていくことが大切だと感じています。
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